起業家の心構え
起業家の原動力は「少年の夢」
- 私が企業家になろうと思ったのは小学生のときだった。「ぼくは社長さんになります」と作文に書いて宣言した。といっても、実際に起業したのは、それから三十年ほど後、三五歳のとき。しかし、もし私が少年時代にその夢をもたなかったら、おそらく起業していなかっただろう。
欧米の先進国では小さい子どものうちから企業家精神を育てる教育をおこない、実際その成果はあらわれているようだ。大学になってから起業家精神を教えるのでは遅い。将来にわたって日本の開業率をあげるためには、小学生の教育現場から見直す必要がある。自主性を育てない没個性的な指導、画一的な左脳教育では少年の夢を摘んでしまう。
私は自分自身のことも振り返り、学校教育だけでなく社会全体が総掛かりで「少年の夢を育てる教育」の必要性を痛切に感じている。
起業家を生み出す原動力は、「少年の夢」にほかならないからである。
どんなときでも、いまが一番のチャンス
- 「世の中は成るようにしか成らない。しかし、成るようにも成る」
私はいつもそう思っている。悩んでも悩んでも成るようにしか成らないけれど、やることはすべてやって、ずっと念じていれば成るように成る、ということだ。
要するに「人事を尽くして天命を待つ」ということだが、何もやらなければ何も始まらないのが世の中というもの。「今が一番いいとき、今しかない」と思って、とにかく行動を起こすことだ。ところが、たいていの人は「今さら遅い」と言って動こうとしない。
私の父親は、よく仕事を手伝ってくれたが、六〇歳のときに、「わしがもう十歳若かったら、もっとやってやれるのになあ」と言っていた。七〇歳になっても「わしがもう十歳若かったら」と言い、八〇歳のときも同じことを繰り返し言い続けていた。
「若かったら」とか、「金があったら」とか、「人がいたら」とか、どうのこうのとできない理由、やらない理由を言うけれど、明日よりも今日が一番若いのだから「今が一番チャンス」なのだ。しかし、もう遅いと恩ったら、そのまま一生「もっと前にやるべきやった」の繰り返しで終わる。
すべてのことにおいて、今が最適であるし、今が一番チャンスのとき。そう思って物事をすすめないと始まらない。時流の追い風に乗ったきは何をやっても成功するけれど、逆風のときには何をやっても上手くいかない。そのあたりの見極めは大事だけれど、逆風のときは何もしないでいいのかというと、そうではない。
どんなときでも、いまが一番のチャンス
屋台精神こそが成功のもと
- 本当にビジネスで成功しようと思うのなら、まず堅実に屋台から始めなさい、屋台精神こそが成功のもとだと私は言いたいのです。ここで屋台というのは、固定費の掛かる店舗のない商売という意味です。
要するに商売を始めるときは、裸一貫で屋台ラーメンからでも始める気持ちが一番大切ということです。ニュービジネス大賞を取ったりするところは、ビジネスのアイデアとか技術力とかは大変優れているけれど、逆に周りから注目されるだけに、 過剰投資に走りやすいのです。屋台の精神でやれば成功していたかもしれないのに、一気に飛躍しようとします。結局、その人の金の使い方、すなわち経営力が問題だと思います。
最初からきれいな事務所や店舗を構えたりして形から入った人は、ほとんど破滅の道を歩んでいます。商売をするのにそんな心構えでは成功しません。まず屋台から始めるという現実的な姿勢で、なおかつ情熱と才覚のある人が企業家として成功するのです。
とにかくまず商売道具としての屋台(技術や商品)を持って、一歩、一歩階段を上っていくことが肝要です。
他人に頼るのは一番いけない
- 何かの商売を始めようというときに、「資金がないからできない」と、たいていの人がそう考えます。それは常識的には正しいと思われがちですが、屋台精神からするとそれは間違いです。
「人・モノ・金」がないからできないというのは、その人が最初から他人に頼る気持ちがあるからです。そんな依存心の強い人に、人・モノ・金を与えたところで、成功しないと思います。独立してビジネスをする上で何よりも大切なことは、何としてもやりたいという志と、やり遂げようという自分の強い意志なのです。
まず志があって、本当にやりたければ屋台から始めたらいいのです。金かなかったら、金を使わずに屋台を借りてやったらいい。今どき、屋台なんて格好悪いなどと思うようでは成功しません。むしろ誰にも頼らず、他人の目など気にしないで屋台でも何でもいいからという人か間違いなく成功しているのです。そんな人は、迫力が違います。ちょっとやそっとでへこたれない、人一倍のエネルギーと情熱があります。だから人もモノも金も自然に寄ってくるようになるのです。
とにかく他人に頼る気持ちは捨てて、全く自分一人で屋台から始める心掛け、それがビジネスで立とうという人の心意気として必要な絶対条件です。
情熱と信念をもって、とことん掘り下げる
- 経営者が新たなビジネスに参入することを決定するのは、そこに勝算があると思うからだ。勝算とはすなわち利潤か出るということにほかならないが、一〇〇%の成功が約束されたビジネスなどはありえない。どんな商売にも、それなりのリスクがあるから利潤も産まれる。ハイリスクなほどハイリターンがある。
大企業が新規事業を起こすときはリスクと利潤を天秤にかけ、財務や企画、開発や営業部門などが一緒になって緻密な事業計画を立てるが、事業規模が小さいところは、だいたい社長の直感と経験則で決まってくる。
私の場合も直感と経験で、頭のなかにビジネスモデルのおよその輪郭は描ける。そして十分な勝算があると思えばやるし、勝算があっても最終的にはやらないこともある。損得より善悪で判断し、この商売かほんとうに世のため人のためになるかどうかを見極めて結論づけるわけである。
しかしいずれにしても、勝算があると思って新規ビジネスを始めても、やってみないことにはわからない、というのが私の結論だ。頭に描いたビジネスモデルをより具体的に、よりシステム的に構築したつもりでも、いざ始めてみるといろいろな不具合が出てくるからだ。そのつど、修正や改善をしていったらよいのだけれど、いくら努力を重ねても突破口を見出せないというときに、どうするか。
たとえば「あと三メートルほど掘り下げたら金脈にあたる」という思いがあるとき、諦めたら悔いが残る。
しかし、そう思って掘り続けてきたが、このままでは倒産しかねない。そこで諦めてしまうのか、もうひと踏ん張りして続けていくのか、判断の難しいところだ。
経営を長く続けていれば、崖っ縁の状況に立たされることは誰しも経験する。その一人として言わせてもらえば、「絶対、どんなことがあっても諦めるな。たとえ崖っ縁から転落しても、下の木枝にひっかかることがある」ということだ。
ビジネスは総合的な創造活動
- どんなに優れた事業プラン(ビジネスモデル)でも、ヒト・モノ・カネがうまく回らなければ成功しない。ベンチャービジネスの多くが失敗する理由は、カネが回っていない(収益が上がっていない)にもかかわらず、無理な借金を重ねるからだ。
事業というのは、新しいモノを創ったり、新しい発想の机上プランだけで成功するほど甘いものではない。商売が存続できる利潤を産み出すようになって初めて、そのビジネスは世に認められたと言えるわけで、利潤が出ていないうちはこの世に誕生さえしていないと思ったほうがよいのだ。
利潤が出ているということは、その規模はさておき、世のため人のためになっているということ。だが、その利潤もいつ何時、パタッと途切れるかわからない。というより、同じ商品、同じようなビジネスモデルでやっていては、遅かれ早かれ、それまで産み出されていた利潤はなくなると考えて、次の手を打っておかなければ企業の存続はありえない。ビジネスの難しさ、おもしろさ、創造性はそこにある。困難だからこそ、やりがいがあり、虚業では得られない喜びと達成感がある。だから、事業とは総合的な創造活動であると、私は常に言っている。
人を感動させたり和ませたりする芸術作品は、人間にそなわった創造力のたまものである。この創造力は誰しもがもっているけれど、誰しもが優れた芸術家になれるわけでもない。もって生まれた才能や環境、精進努力によって初めて開花する。
同じように、変化の激しい現代において、利潤を産み出すビジネスを継続していくことは、肉体的にも精神的にもたいへんなエネルギーと創造力が求められる。金儲けがうまいから事業家なのではなく、体力・知力・精神力を総合的に発揮して、世のため人のためになる事業を継続できる人が真の事業家というものだ。
シンプルに、ありのままに
- 「単純明解ほどすばらしいものはない」
最近、私は以前にも増して、この思いが強くなっている。単純にして明解ということは、誰にもわかりやすい原理原則があるということを意味する。
情報は氾濫しているけれど、原理原則をもって見れば本質に接近することはできる。できるだけシンプルに、ありのままに見たらよいのだ。
私は、社内会議で誰かがあれこれ理屈めいたことを言ったりすると、すぐこんなことを言う。
「そんなふうに難しく考えていったら、できない。いまあるものの情報、資源のなかでシンプルに組み立てていくしかない。パッと見た、ありのままを活かして使ったらいい」
部外者には、禅問答のように聞こえるかもしれないが、要は、素直にありのままに考えて無理をするな、と私は言っている。よい商品は売れる、売れない商品は売るな、人に迷惑をかける商売をするな、人か喜ぶことをするのが商売だ。そういうことなのだ。
新たなビジネスモデルを創るときも、スクラップ&ビルドするときでも、常に単純明解な原則に立ち返って、前向きに取り組むこと。お金を追い求めず、正しい商売、世のため人のための商売であれば、利益は自ずとついてくる。 そして、ビジネスで生きるということは、今日よりも明日。今日は、昨日の今日であってはいけない。明日は、今日の明日ではいけない。死んだ先のことなど考える必要もない。とにかく与えられた命を精一杯生きることが、ひとりの人間として一番大事なことである。
善悪で判断して行動し、当たり前のことを素直に見て、自分を信じて最高に活かすように努める。そのよ うに人事を尽くして念じれば、少年の夢はかならず叶うのである。
時流に乗ることが重要
我が社は、昭和48年の工芸画を皮切りに、インド民芸品、インド更紗、唐木家具、健康産業、ファッション・リフォーム、ディスカウントチケット、そして平成8年からは携帯電話・PHSなどの情報産業に進出しています。当社では、大体2年ごとに新しい事業を次々と展開しており、だからこそ今日の姿があります。
ビジネスは時流が大明です。時流に乗っている商品のライフサイクルは4年です。新しいことをすると、1年目は必ず売上げがあります。2年目からは利益が上がり始め、丸2年後には最高に達します。しかし、3年目頃から下降し始め、4年目にはゼロになります。世間は目まぐるしく変化しているのです。
比例費経営のすすめ
(1)固定費ゼロビジネス
このように変化の激しい中で競争に生き残るためにはまず、在庫を多く抱える固定費のかかるビジネスは避けるべきです。このようなビジネスは通常、7割売れても利益はなく、在庫を全て売り切って初めて2~3割の利益が出るのです。売れ残りを安く売ると利益が飛び、その上、税金を支払うと資金が足りなくなってくるという悪循環です。
では、在庫が要らないビジネスはないか。ファッション・リフォーム店「私のお針箱」は現金・前金制、仕入れが要らないので在庫はなし、店舗もどこか部屋があればよく、店員も1人で良い。とにかく固定費のかからないビジネスに、私は飛びつきました。。
(2)パートナーシップ制経営
ところが一つ問題がありました。職人が必要なのです。昔から素人が職人を使うと失敗するという鉄則があります。そこで、職人を上手に使うために導入したのが、パートナーシップという全員経営参加と成果分配方式システムでした。社長と社員の間に雇用関係は一切なく、全員がパートナーとして一緒に経営に参加し、貢献度に応じて公平に成果を分配します。お蔭で全社員が主体的に生き生きと働いています。
寸法直し業は隠れた市場ですが需要が高く、全アパレル産業の数パーセントの売上げがあります。今、アパレル産業はほとんど既製服です。したがって、ズボンなどは100%寸法直しが必要で、ブティックや百貨店、スーパーマーケットなどからの注文は後を絶ちません。
また、絶対に赤字が出ません。なぜなら、家賃は要らないし、人件費も成果分配方式で全て比例費です。客単価は低いですが、比例費経営は損益分岐点がゼロに近いので大きな利益になるのです。
信用が利益を生む
- お金は不思議なもので、一生懸命やっていれば必ずついてきます。ビジネスで最も大明なのは信用です。そして信用第一のビジネスで大切なのは、損得ではなく善悪で物事を判断することだと社員に常々言っています。
「甲南チケット」が展開しているディスカウントチケット販売のノウハウは、「高く買って、安く売 る」ことにあります。普通は、安く仕入れ出来るだけ高く売ります。しかし、ビジネスは客が喜ぶことをしなければいけません。売れる商品が一番だから、その商品を売り値を超えない範囲で出来るだけ高く仕入れて売れたらいい。もし適正利潤を乗せても売れるのなら、それが最善だから値引きなどしなくてもいい。取引相手に儲けてもらうと、次国からは喜んで当社に協力してくれるようになる。これが店の繁栄につながるのです。
また、売り値は分からないけれども、仕入れ値が分かっていたら出来るだけ安く売る。すると顧客は次も来てくれますが、その反対をすると二度と来てくれません。損得ではなく善悪を考える。法律にふれること、間違ったことは決してしない、これが自社の顧客第一の仕事、自社の信用につながると思っています。
危機感を持って事業の多角化を
例えば釣りをする時、池が2つあって、片方は大勢の人が釣りをしているが、もう一方は余りいないとしたらどちらを選びますか。どんなに仕掛けがうまいプロでも、魚のいない所では釣れません。ビジネスも同じで、競争が激しくても客がいるところでやらなければなりません。その代わり、失敗した場合に備えて他の場所に店を出しておく、これが多店化です。
また、どんなビジネスもいつまでも続きません。いつかはつぶれます。ですから常に次の展開として何か新しいことを探さなければという危機感が、次のビジネスチャンスの発見につながるのです。
皆さんも起業する時、何かしなければという危機感と強い信念がなければなかなか成功しないと思います。初めは上手くいきませんが、1年間辛抱すれば利益が出てきて、2年目で最高になるでしょう。しかし、この時既に次の展開を考えているべきで、落ち目になった時では遅いのです。我々零細企業は大企業と違い、時流に乗り、なおかつニッチマーケットを狙って出たり入ったりするしかありません。何でもいいからとにかくやる、やってうまくいったら次を考える。またうまくいったら、その次を考える。とにかく多店化・多業種化をしなければなりません。
ゼロからの出発ほど強いものはない
- 最後に、三宮の生田筋に携帯電話・PHSの専門店「ヒットショップ」があります。この店は一番良い場所に出店し、周辺の店を全部食い潰してしまうというのが業界の常識になっていました。そこで私は自殺行為だと言われながらも、その隣りに出店しました。そして隣りの日本一の店と全く同じものを作ろうと、値段からディスプレイまで徹底的にまねをし、いつしか売上げで追い抜いていました。
商売はやる気です。普通5年かかることでも、一生懸命やれば一週間でできます。少し知識を持てば顧客と会話が出来る。そうすれば顧客から逆に全てを吸収できます。競争相手からも学べます。盗めるものはたくさんあっても、盗まれるものは何もない。結局はどんなビジネスでも、分からないことほど強いものはないのです。